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「気になる」の探求

こどもの時から、誰が決めたのかわからないものや、根拠がわからないものに対して「なんで?」「どうして?」と、多くの疑問を持っていたことをよく覚えている。大人になった今では、日々感じる「なんで?」を「気になる」対象として捉え、その対象を脳内でぐるぐる回しながら観察して探求することが一つの趣味ともいえる。ここでは、そんな「気になる」について、自分なりに探求したものを少しずつ外に出していこうと思う。

◆約束のような行為を印すもの

私たち人間より遥か昔から地球上に存在していた植物。いくつもの種が絶滅・退化・進化し、数十年ほどしか生きていない私からすると、もう見ぬ、まだ見ぬ植物の方が圧倒的に多い。そんな私の短い半生のなかで出会った植物はそう多くはないが、印象的なものがいくつかある。例えば、名前はよく知っているのに、いざ思い出そうとするとぼんやりとしか思い出せない「ホウセンカ」がそのひとつである。ぼんやりとした幼少期の記憶では、はじける実を持ち、青空に映える赤朱色の花が夏を彩っていたことを覚えている。そんな、なんとなく遠い存在になっていたホウセンカが、ある時期をきっかけにものすごく気になる存在となり、探求の対象になったのである。

大人になってホウセンカに再会したのは、おとなりの国、韓国の文化について知ろうとしているときだった。チョン・セランさんの著書『保健室のアン・ウニョン先生』(亜紀書房,2020)をドラマ化した映像作品『보건교사 안은영(邦題:保健教師アン・ウニョン)』(Netflix、2020)だったかと思う。この物語の主人公は、霊能力を持った高校の養護教諭である。学内で起きる怪奇現象などに立ち向かうのだが、霊能力を維持し続けるためか、魔除けのためか、ホウセンカで爪を染めるシーンがある。とても印象的だったので、魔術の世界ではそういう習わしでもあるのかな?くらいに思っていたところ、ユン・ガウン監督の『우리들(邦題:わたしたち)』(日本公開2017年)という映画を観ていたら、今度は小学生の主人公とそのお友達が夏休みの遊びの一つとしてホウセンカで爪を染めていたのである。この映画でも前者と同じく、とても印象的かつ象徴的に扱われていたため(このシーンは下記画像のようにポスターにも採用されている)、ホウセンカの爪染めというのは韓国では非常にポピュラーで、何かを象徴する行為なのかな?と思いはじめ、色々と調べていくうちに、森源治郎編『ホウセンカの絵本』(農山漁村文化協会、2009)という本にであい、どうやら韓国だけでなく、中国や日本でも古くから行わている行為であることを知った。日本に関しては沖縄でポピュラーなようで、沖縄の民謡に「てぃんさぐぬ花」という歌があり(「てぃんさぐぬ」はホウセンカのこと)、歌詞の中にもホウセンカの花で爪を染めるというフレーズがある。赤色は魔除けの意味を持ち、爪を赤色に染めることで身を守るという意味があったようである。赤い色素であるアントシアニンは、ホウセンカの花びらよりも葉の方に多く含まれており、爪を染める際には、すりつぶした葉を爪の上に乗せてラップやアルミホイルで固定し、数時間置くと長期間爪が染まったままになる。まるでヘナみたい。

夏休みの間だけ、ひと夏の儚い約束の印のような爪染めをいつかやってみたい。

上記画像:『우리들(邦題:わたしたち)』の本国版ポスター(HanCinema HPより)。なんて素敵なんでしょう。